2022年6月17日(金)20:00〜23:00
吉祥寺の創作文芸専門シェア型本屋「招文堂」が運営する文芸ワークショップに参加しました。
各々〜5000字程度の文芸作品を持ち寄って、感想や気になったところなど、意見交換をしようというもの。主催は花村渺さん(渺の字いいですね、言葉や漢字ってまだまだ奥深い)。
招文堂のやまおり亭さん、花村さんのお二人に進行していただき、提出順で作品を巡っていきました。
以下、作品の感想と、WSで感じたことや発見を残します。作者名は敬称略にて。
雅伸と未紅の関係性→未紅の雅伸への心情→それぞれの過去が垣間見えることで、見えてくる景色が少しずつ変わる。二人の間にあるものが、だんだん顕されていく過程がとてもよかった。
個性に合わせて地の文の言葉の選び方が変わっている? 言葉のはしばしから人となりや雰囲気がにじむ。雅伸の生真面目で抑揚をおさえたかんじと、未紅の勢いがあって起伏の激しいかんじが、当人をとりまく描写のひとつひとつをとってもちゃんと書き分けられているように思う。
お互いを大事にする話。「大事にする」と一言で言ってしまえばそれまでだけど、その中身がエピソードや仕草、相手へのまなざしを通じて丁寧に描かれている。こういうふうに大事にしたい、されたいと思える関係。辛い過去の片鱗ものぞくけど、傘のエピソードのように信頼にかえて塗り替えていける。この誠実さが魅力だと感じた。
気になった、というか私がすんなり読み取れなかったのは、未紅の「一瞬でも疑ったなんでバカだった」。一体どこにかかるのか、すぐにピンとこなかったので読み返して理解した。未紅が「たぶらかす」のと、過去の男たちが「未紅を喜ばせ」が対応していて、物で人を釣る行為に対して言ってるのね。このへんは、わかりやすく書けばいいというものではないと思うけれど、異世界トラックのくだりのインパクトが強いので、けっこうもってかれてしまったかんじはする。対応している箇所のつながりがいっぺん吹っ飛んでしまったというか。ただ、私がぼんやりしていただけな気もする。こういうところを、ちゃんと「読解」できると楽しいよね。ちゃんとわかって読むと、長財布を開けようとする未紅の覚束なさとか、気持ちがどうダメなのかとか、なんとなく流していたところをいっそう鮮やかに、解像度を上げて追うことができた。
氷上さんの素敵なところは、描写のひとつをとっても人や状況をあらわす目的にきちんと向かっていて、対象がどんどん炙り出されていく言葉の積み重ね。読者との信頼関係をきちんと重ねていくさまが、雅伸と未紅のやりとりにも通じるようで、なんだか嬉しい気持ちで読み終えた。
で、「推せる」ので作者HPにて雅伸エピソードをタグ検索してニヤニヤした草群であった。
冒頭から、会話文と僕(登坂くん)の疑念に絞って展開されていく。登坂くんがもはや髭に囚われて何も頭に入ってない状態なのがよくわかって、あとの「早口感想」に効いてくる。もう少し早く状況描写があったほうが親切という声もあったが、この作品の場合は最低限にとどめるのがいいように思う。
大きく分けると、登坂くんの感想の前後、「髭の待遇」の作者を登坂くんが知る前と後で話が動く。周辺の描写が少ないぶん、髭が妙に際立っておかしみを生む前半、言葉や人間に対する態度がそれぞれ明らかになり、砂原さんが登坂くんを認めていったであろう後半。作品をめぐる会話のなかで「通じる通じない」がわかってしまう決定的な瞬間が描かれていて、とてもよかった。
「詩的」に対する反応、言葉をめぐる態度。登坂くんに親しいものを見出した砂原さんと、作品を通してなんとなく感じ取った様子の登坂くん。この二人がこれからどうなるのかならないのか、続きがあるとのことなので楽しみ。
ところで、「最低限の状況説明・描写」の最低限ってどのラインかという話は当日も出たように思うけれど、これが難しい、というか自然に織り込むクセ、あわせ技みたいなものを身につけていけたらいいなと思う。こればっかりは、たくさんの作品にふれて、いろんな例に当たるしかないのかもしれない。ついつい物語にのめりこんでしまって、当初の目的を忘れることがほとんどだけれど。
生業として現代社会(?)に当たり前に存在する魔女、という設定がとても好き。魔女を進路のひとつとして、選べなかった/選ばざるをえなかった(というほど悲壮でもない)姉妹の、特に妹(舞)の屈託。私自身が三姉妹で、学校えやたら目立つ姉(私)に対する末妹の複雑な感情を大人になってから聞かされたこともあり、親近感を覚える話でもあった。
重ねられるエピソードがいずれも「時間」を扱っているのかなと思った。明確なリミットがあって一分一秒が惜しい受験生と、もっとおおらかな時間の使い方をする魔女の仕事。姉妹の時間の使い方が決定的に分かれてしまって、エピソードを積み重ねながら二人の落差・対比を見せていくところがよかった。さらに、ラストの花火。夏のモチーフとして定番ではあるが、時間という切り口で見るとこの場面設定がベストなのでは。なんとなくぎこちなかった姉妹の関係が和解する、姉の思いに妹がやっと心を開ける瞬間が、華やかで刹那的な「花火」とともにあるのがとてもいい。
気になったのは、受験生である舞がうらめしく見送る「部活に向かうであろう女子高生たち」の脚が白いところ。夏の外の描写として単純に違和感があるのと、舞との対比が成立しないので、色が白いなら出さなくても……と思ってしまう。
描写を書き込みすぎてしまう、という話もあった。言わなくてもわかる、共通了解の部分はどんどん省略していくのが私のやり方だが、これが独りよがりにすぎると説明不足で不親切になる場合もある。バランス感覚はつねに意識していきたいところ。
作品④「くわっちーさびらあとがき」/エイドリアン
沖縄の食に関する同人誌のあとがき、ということで、そもそもこれは何かコメントを述べていいものなのかと。
あとがきは読者に対する手紙、私信のようなものだと思っているので、そこに口を出すのは野暮ではないかと。どうなんだと。
読んでいて気になったのは、「Twitterの呼びかけに対して集まってくれた人と、遠隔でやりとりしながらの編集作業」といういかにも大変そうな、特殊な行程をたどっているにもかかわらず、その具体的なエピソードが読めないこと。二転三転したようすの「くわっちーさびら」というタイトルの意味や思い入れが読めないこと。
ふ、フラストレーション……
面白そうな話の気配はしているのに、具体的なエピソードには触れられない。マクドナルドのポテトの香りだけが残っているエレベーターみたいなもので、「え、イモは?!」って思う。もったいない。そこのところを読みたかった。絶対おもしろいのに。
普段あまり文章を書かない方のようだが、全体的にテンポよく、すっきりとしていてするする読めたので、この勢いで出来事を綴ってくれたら変な技を凝らそうとしなくても面白いものができあがると思う。そもそも状況が特殊だし。また機会があればぜひ。
「褒めのバリエーションがすごい」という意見があってハッとした。なるほど、これは表現のバリエーションはもちろん何よりお人柄だ。我が身を振り返ってちょっと反省したのであった。
状況設定と日本語表現が一体になって異様な世界観を生み出していて、えらいものを読んでしまったと思う。
読み終えて、タイトルの一文字にただよう儀礼や神域の気配にそわそわしながら漢字の意味を調べて、少しぞっとした。
このふたりは、一体なにを禊ぎ落としてなにになったんだろう。
変わり果てていく妻の生態がどう変化しているのか、ただ生き物として淡々と描写することで夫の態度が透けて見える。圧倒的な受容。噛みつかれて流血したり肉をえぐられたり、読者がかんじる嫌悪感と夫のまなざしに明らかな隔たりがあって、理解不能とも言える状況が物語の怖さの源であるように思う。
異様なのはきっと、妻に生じた異常だけではなくて、その異常を日常として受け入れた夫と、だんだん閉じられていく二人の空間そのもの。なんなら、スーパーの火事もはこべらと何らかの関連があるのではないかと思ってしまう。
ほら、わからなさは疑念を助長する。
全体的に白く、生活感のあるものがどんどん漂白されていくような印象をもった。はこべらのしろ、妻のまるい肌のしろ、しろは白であって素でもあるのかな。はこべらという名前がまたいい。草花の産毛と子猫のほわほわした毛並みを連想させる。
この話は、日本語で表現されるべきであって、書く際にもきっと日本語を楽しんでいるんだろうなと感じた。この表現がテーマに沿って意図的になされたものなのか、そうでないのか。他の作品ではがらりと印象が変わったら、それはもうすごいことだと思う。別の話も読んでみようと思う。
私は「たしかめるのは君の輪郭」という作品を提出しました。
いずれ長編にするつもりであたためていた世界の一端を、主人公とその幼馴染の関係から切り取った短編で、以前自己紹介代わりの小冊子を少部数作成したときに収録したものです。
いただいた感想としては(メモ)
◎世界観をもっとよく知りたい/タイトルが内容を表していてよい/説明部分も簡潔だがわかりやすい/キャラクターが立ってる分もっと登場人物(特に主人公アトリ)の外見が知りたい/プロローグなんだなって一読してわかる/副詞の使い方が独特で流れるような文章/つづきがんばれ/種まきとしてはいいんじゃない/キリエの登場シーンが情景と外見描写を同時にやってていい
▲指示語が多い/主語がわからない箇所がある/登場人物の基本情報はサッと出してほしい(キリエの性別とか)/アトリの能力のなにがそんなに危ないのか、リスクを冒してまでなぜ使ってるのか、もう少し見せてもいい/一部、言葉が不親切/世界観の核になる情報、文様の説明がほしい
推敲不足とすっとばして書くクセをすべて見抜かれていることがよくわかって本当に勉強になりました。という一方で、褒めていただいた部分もたくさんあってとても嬉しかったです。
だんだん遠慮がなくなっていって、でも気遣いはあって、ベタベタした身内感もなくて、実はすごく貴重な時間だったのでは……とあとになって思いました。
と、ちゃんとプリントアウトして書き込みながら読めばよかったなあ。web小説をwebのまま読むと、感想が上滑りしてうまく整理できないんです。早く気付けばよかった。何周か読んで、直前にまとめた私がアホでした。
タイプの違う作品を互いにぶつけ合った(?)ことで、自分の作品のいい点も足りない点も浮かんできました。「たしかめるのは〜」をそのまま直すのと、今回学んだことをベースに長編の支度をすすめるのと、どっちかな……結局同時にやる気がするな……と思いつつこの文章はしめます。
花村さん、みなさま、今回は本当にありがとうございました!